研究概要 |
ヒトの頚髄前角細胞群内での細胞の大きさとその量の相対的比率を知る目的で、病理解剖より得た各10才代の頚髄前角細胞の核小体の直径を測定した。ヒトの頚髄前角細胞中にはα運動細胞(大)およびγ運動細胞(小)の2種類が存在し、その相対的量分布の変化を通じて頚髄に加わる経年性変化の質を推測でき、且つ圧迫性頚髄障害に対する適切な除圧時期を知ることが可能になると考えられる。(症例および方法)0-9才3例,11-19才2例,20-29才2例,30-39才8例,40-49才4例,50-59才7例,60才以上9例の計37例をもちいた。いずれも非脊髄性疾患による急死例である。C6,7,8髄節の両側Rexed第【IX】層を含む前額切片を切り出し、Kluver-Barrera染色およびNissle染色標本を作成した。光顕によりRexed第【IX】層内で隣接する細胞100個の核小体を写真撮影し、富士microcopyreader RF3Aを用いその直径を計測した。細胞の直径と核小体の直径は直線的比例関係にあるといわれている。(Coggeshall,1985)(結果および考察)現在迄に全例の標本作成を完了し、うち各世代1-2例ずつ計10例のC7髄節につき計測を完了した。核小体の直径の相対的大きさを折れ線グラフにすると、最大値を10(実測値5.5-5.0μ)とした場合、0-9才代では7前後にピークを有する一峰性グラフを、10才代-50才代では6および9前後にピークを有する二峰性グラフを、60才代以上では9前後にピークを有する一峰性グラフを示す傾向があった。大ピーク値はα細胞を、小ピーク値はγ細胞を表し、且つピーク値の変動は経年的な運動細胞の成熟過程および脱落過程を示す可能性があると考えられるが、その実証のためには更に他部分の変化を知り、また動物実験により脊髄に各種障害を与えた場合の脊髄運動細胞群の変化と対比する必要があり、現在その準備中である。
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