研究概要 |
膜蛋白質の実験モデルとして高度好塩菌の菌体膜中に存在するバクテリオロドプシン(bR)を用い、揮発性麻酔薬によってもたらされる分子構造の変化とその圧拮抗現象を可視吸光スペクトル分析により調べた。Halobacterium halobiumの形質膜より分離精製した紫膜を25mMトリス緩衝液(PH7.0)に懸濁し測定試料とした。揮発性麻酔薬methoxyfluraneを、2mMの濃度となるように密封試験管の紫膜懸濁液に添加し30分間スターラで撹拌し平衡させた。サファイア窓を有するクランプ型高圧光学容器に試料を入れ、油圧ポンプで加圧して吸収スペクトルを測定した。使用した光学容器は2000atmまで加圧可能である。吸収スペクトルの測定は、15℃,35℃にて、各々、1atm,150atm,300atmで行った。麻酔薬を投与していない紫膜懸濁液についても同様の条件下で測定し、比較対照とした。bRは暗順応したものを用い、すべての操作は暗赤色下で行った。麻酔薬を添加していない懸濁液では、15℃および35℃において300atmまで加圧してもbRの可視吸収スペクトルの変化はみられなかった。2mMの濃度のmethoxyfluraneを添加した懸濁液では560nmにおけるbRの吸光度(【A_(560)】)は対照値の97.3%(15℃)および93.3%(35℃)に減少した。そして、150atmの加圧によって、各々対照値の98.1%、95.2%に回復し、さらに300atmでは、98.6%、96.6%まで回復した。bRはレチナールを発色団として持ち、暗順応下では560nmに吸収極大を有する。その吸収スペクトルの変化は、レチナール・蛋白質の相互作用の変化を反映している。揮発性麻酔薬によって生じたbRの吸収スペクトルの変化は、麻酔薬がbRの高次構造を変化させ、レチナール・蛋白質の相互作用に影響をおよぼしたためと考えられる。また、麻酔薬によってもたらされたbRの吸収スペクトルの変化は加圧によって回復したが、これは麻酔薬による膜蛋白質の分子構造変化の圧拮抗現象を示すものと考えられる。
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