研究概要 |
本研究は, 分子レベルにおいて全身麻酔のメカニズムを解明することを目的とする. 吸入麻酔の作用部位が生体膜, 特に興奮性膜にあることは一般に受け入れられている. 生体膜は主に脂質と蛋白質により構成されるが, 本研究ではモデル膜蛋白質として高度好塩菌のバクテリオロドプシン(bR)を用いて, 膜蛋白質の分子構造と機能に対する吸入麻酔薬の影響と加圧の効果を検索した. 1)紫膜, 青膜およびリン脂再構成膜において, bRの分子構造に対する吸入麻酔薬の作用を可視吸入スペクトルおよび円二色性(CD)スペクトルの測定によって調べた. 可視吸光測定では, 麻酔薬によって560nmの吸収極大が減少し, 510nmに等吸収点を持ちながら480nmの吸収極大が増大した. また, 紫膜におけるbRの特徴的な2相性のCDスペクトルは麻酔薬によって濃度依存的に変化し, 最初に負のCD極大が消失し正のCD極大が短波長側に偏位した. 2)リン脂質ベジクルは再構成させたbRのプロトンポンプ機能に対する吸入麻酔薬の作用を調べた. バリノマイシン存在下において, プロトンポンプ機能は麻酔薬によって濃度依存的に低下した. 麻酔薬による吸収スペクトル変化とプロトンポンプ抑制とは良い相関, 対応関係を示した. 3)麻酔の圧拮抗現象が膜蛋白質の分子次元で成立するか否かを調べるために, 麻酔薬によるbRの分子構造変化に対する加圧の硬化を検索した. サファイア窓付きの耐圧セルの分光光度計に装着し, 高圧下で吸収スペクトルを測定できるようにした. 麻酔薬による560nmの吸収極大の減少は圧力依存的に再び増大した. 以下の結果より, 吸入麻酔薬がbRの分子構造と機能を変化させること, そしてこの麻酔薬の作用が加圧によって拮抗させることが明らかになった.
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