研究概要 |
DNA塩基中, メチル化をうける唯一の塩基はシトシンである. メチル化シトシンはDNAの立体構造を変化させ, 他の蛋白質や酵素, 例えばRNA-ポリミラーゼとDNAとの結合性や親和性に変化を与える. またシトシンはDNAの調節遺伝子部分に集中的に存在することから, シトシンのメチル化がDNAの遺伝子発現の制御機構に関与していると考えられている. 本研究では, 胎生期より成熟・分化し, 出生と同時に呼吸という重要な機能を開始する肺組織について, その組織DNA中のメチル化とその分化・成熟の程度との関係を遺伝子活性の面から明らかにすることにある. 61年度までに, 我々は肺組織DNA中のメチル化シトシンについてHPLCを用いて定量的分析を行った結果, (1)肺組織DNA中のメチル化シトシンは, 肺の成熟過程において脱メチル化をうける可能性があること, (2)DNAのメチル化と遺伝子活性は逆相関関係にあることから, 肺組織は出生を期に遺伝子活性の面からも急速に活性化されていることを示す結果を得た. 本年度は, DNAのメチル化の程度と組織の分化・成熟・加齢との相関をさらに明らかにするため, ヒト胎盤組織について, 妊娠初期, 中期, 後期の組織総DNAに対するメチル化シトシンの量を分析した. その結果, メチル化シトシンの含有率はそれぞれ0.72, 0.78, 0.92mcl%で, 妊期の継続とともに上昇しており, 妊娠後期胎盤における加齢の程度との相関を強く示唆するものと思われた.
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