研究概要 |
昨年度検討を加えた橋排尿中枢の近くに括約筋活動を高める部位があるとする報告が見受けられることから, 本年度はこの部位の機能について除脳イヌを対象として, 検討を加えた. 膀胱頂部より2腔カテーテルを膀胱内に挿入し, 一方の経路から内圧を測定し, 他方からは生理的食塩水を注入できるようにした. 尿道壁内にはワイヤー電極を刺入し, 筋電図を導出した. 頭部を脳固定装置に固定し, 体位を四足立位としたKuruらやHolstegeらが報告した括約筋活動を高める部位に先端直径が5〜10μmのwood合成封入微小ガラス電極を刺入して刺激を行い, それに対して括約筋の電気的活動に増強反応が得られたら, この部位に電極を固定して, 種々の検討を行った. 括約筋中枢の電気刺激により, 生理的食塩水の膀胱内注入に対して生じる膀胱収縮が抑制され, 膀胱用量も増加した. さらに, 電気刺激により括約筋の活動が高まり, 尿失禁が消失したり, 膀胱内圧が高い場合には膀胱弛緩が生じた. 以上から, 刺激部位は蓄尿時に積極的に働いており, 蓄尿中枢と言うべき部位と思われた. 刺激部位に直流通電による微小破壊巣を作製した後, 脳幹を取り出して10%ホルマリンで固定して50μmの凍結切片として脳幹前額断面上で組織額的検討を加えると, その部位は吻側橋網様核, ケリカフューズ核, 青斑下核などに認められた. これらの成績から橋には排尿中枢と蓄尿中枢が存在し, 蓄尿時には蓄尿中枢が排尿中枢に抑制に作用して, 膀胱の弛緩が起こり, 一方, 排出時には排尿中枢が蓄尿中枢に抑制的に作用して尿道の弛緩が生じることが示唆された.
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