研究概要 |
1.成長因子の精製:ラットの正常前立腺と前立腺癌(Dunning腫瘍)から成長因子を精製した。活性測定は【G_1】期に同調させた培養細胞(BALB/3T3)におけるDNA合成促進によった。正常な背側部前立腺に存在する成長因子はheparinに対する親和性の低い"LoA型"で、分子量約14,000、等電点約4.5である。本体は熱及び酸処理により失活せず、SH試薬によって失活した。これらの性質はEGFに類似するが、免疫学的にはEGFではないという結果を得ている。Dunning腫瘍中の成長因子はheparinに対して強い親和性をもつ"HiA型"で、分子量約19,000、等電点約3.8である。本体は熱及び酸処理で失活し、SH試薬に対しては約3倍活性化された。 2.器官培養及び初代培養の確立:(1)器官培養…ラット前立腺を無血清培地中で器官培養する方法を確立した。しかし、この培養系では上記の成長因子及び既存の成長因子(EGF,IGF-1)はDNA合成促進活性を示さず、insulinのみが再現性良く活性を示した。また、男性ホルモン類は形態学的には郊果を示すけれども、DNA合成活性は低く再現性が悪かった。(2)初代培養…前立腺上皮を無血清培地で初代培養する方法を確立した。この培養系を用いて上記の成長因子がその増殖(細胞数の増加)に及ぼす影響を調べた。その結果、LoA型、HiA型共に単独では作用を示さず両者の共存が必要であることが明らかとなった。この系において、男性ホルモンは全く作用を示さなかった。従って、前立腺の上皮の増殖は間質で男性ホルモン依存性に合成される局所因子(成長因子)によって調節されている可能性が高い。 3.今後の計画:今後は(1)上記成長因子の完全精製、(2)これら成長因子の合成と男性ホルモンとの関係、について研究を進めて行きたい。
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