研究概要 |
本年度は上記の研究課題を完遂すべく, 昨年度の研究成果をふまえ, 各種検討を行う下記の実績を得た. (a) 癌細胞の膜特性として, 昨年度より細胞膜の情報伝達機構の中心的役割を果すリン脂質代謝(特にイノシトールリン脂質((PI))代謝)を検討し, 癌細胞膜にはのこPI代謝の異常が存在することを見い出している. 今回さらに, 細胞内のミトコンドリア膜に注目し, 正常細胞とそれに対応する癌細胞を用いて検討した結果, 癌細胞では, このミトコンドリア膜の異常, 特にイオン輸送及びエネルギー伝達系に異常があることを見い出した. (b) 昨年までの検討でヒト腎癌細胞ではPI代謝の異常があり, さらにこの異常が癌遺伝子の一つのc-myc遺伝子等の発現と密接に関係していることを見出したが, 本年はさらにこれを確かなものとする検討と, このPI代謝を調節する可能性のある薬物を用いてPI代謝の異常を正常化する試みとそれが癌細胞の増殖とどのように関連するかの検討を行った結果, 癌細胞における膜PI代謝の調整は癌治療に結びつけれる可能性が示唆された. (c) 上記の検討の一つで, PIのアナログのリポゾームを用いるヒト腎癌細胞の増殖制御効果の検討では昨年までに大豆由来のPIリポゾームが強い効果をもつことがわかったが, さらに検討した結果, このリポゾームはヒト腎癌でも膜PI代謝が亢進している癌にのみ有効であると言う臨床応用を考える上で興味深い決が得られた. これらの研究成果の一部は論文, 及び日本泌尿器科学会, 日本癌学会で, 昨年につづき発表した.
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