子宮内膜癌細胞株(HHUA)は、ヒト正常細胞との融合により造腫瘍性が抑制されることが判明した。この現象がどの染色体の移入により表現されるかを検討するため、微小核融合法により単一ヒト染色体の移入を行った。pSV2_<neo>遺伝子を含む正常ヒト線維芽細胞由来1、6、9、11、19番染色体を単一で保有するマウスA9細胞ライブラリーから任意のクローンを選択し、微小核融合にてHHUAに格染色体を移入した。その結果(1)ヌードマウスでの造腫瘍性は1、6、9番染色体移入クローンで消失し、11番染色体では低下していること (2)軟寒天栽培地上でのコロニー形成率は、1、6、9、11番染色体移入クローンで強く抑制されること (3)細胞増殖能は6、9、11、19番染色体移入クローンでは低濃度血清培地でも親細胞と差はなかったが、1番染色体クローンのみ10%血清存在下でも著明な低下を認めること (4)1番染色体移入クローンのみ細胞飽和密度の顕著な低下を認めること等が観察された。さらに形態的にも1番染色体移入クローンは多核で細胞質の大きい平坦な合胞体細胞の出現が部分的に認められ重積性増殖は消失していた。 以上の結果は癌抑制遺伝子群の導入による造腫瘍性の抑制および増殖特性の変化は、単一の特定染色体の移入によって生ずるのではなく、複数の種類の単一染色体移入によって生ずることを示唆する。現在のところ造腫瘍性の評価は上述の4表現型の変化により主になされるが、これらがいかなる遺伝的抑制により出現するのかが全く不明であるため、単に造腫瘍性の抑制は複数の遺伝子支配によるとのみ解釈される。しかし1番染色体移入クローンで4表現型の全てが抑制されたこと、さらには細胞形態がいわゆる"Flat Revertant"に類似したこと等の所見は、子宮内膜癌の抑制に機能する重要な遺伝子(群)が同染色体に存在することを強く示唆する。
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