研究概要 |
1.胎盤のアンジオテンシン代謝分解酵素 アンジオテンシンの代謝分解を行うヒト胎盤の酵素を明確にし、妊婦血中に著増するいわゆる"アンジオテンシナーゼ"の本態を明確にした。胎盤にはアンジオテンシンI(A-I)をII(A-II)に変換し、同時にブラディキニンのC端のジペプチドを水解するアンジオテンシン変換酵素(ACE),A-IIのN端のAspを特異的に水解しアンジオテンシンIII(A-III)にするAminopeptidase A、A-IIIのN端から順次アミノ酸を水解するAminopeptidaseM、A-IIのC端のpheを特異的に水解するpost-proline cleaving enzymeが存在し、胎盤でA-IIはこれら酵素によりすみやかにジペプチド(His-Pro)にまで分解される。一方妊婦血中にはA-IIをA-IIIにするAminopeptidase AとA-IIIのN端から順次アミノ酸を水解するP-LAPが著増する。従って妊婦血中のアンジオテンシナーゼとはこれら2つの酵素である。2.アンジオテンシナーゼの生理的意義 A-IIは強力な昇圧物質であり、A-II投与によって非妊時と妊娠中毒症では血圧が著明に上昇するのに、正常妊娠時にはA-II不応性となって血圧が上昇しない。このA-II不応性の機序は妊娠中毒症発症解明の鍵と考えられる。本研究によるこのA-II不応性には胎盤アンジオテンシナーゼによるA-II分解の関与が示された。3.アンジオテンシナーゼの臨床応用 正常妊婦と妊娠中毒症の血中A-Iとアンジオテンシン代謝分解酵素を測定比較した。A-IとACEのレベルは両者には著変がなかった。Aminopeptidase AとP-LAPは重症妊娠中毒症では正常妊婦と比べ著明に低下した。4.妊娠中毒症の治療 エストロゲン(E)とプロゲステロン(P)が胎盤のアンジオテンシナーゼ産生や血中への遊出を増加させることをin vivo(ラット)で明確にした。そこで重症妊娠中毒症にEとPの大量漸増投与を行ったところ病態の改善傾向が認められた。5.研究の展開 現在A-IIレセプターとアンジオテンシナーゼの関係につき検討している。
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