〔目的〕妊娠性高血圧症(PIH)の対策の一つに、Ca^<2+>拮抗剤の有用性が指摘されている。本研究は、Ca^<2+>拮抗剤nicardipine(NIC)が妊娠時の血管反応性にいかなる影響をおよぼすかについて、高血圧自然発症ラット(SHR)を用いて検討している。今回、これら高血圧モデル動物に食塩負荷実験を行い、その反応性の差異をみたので報告する。〔方法〕妊娠6日目より1%および1.5%食塩水を負荷したSHRとWister Kyoto(WKY)を使用して、非負荷群と比較した。妊娠20日目に胸部大動脈のらせん状標本を作成し、O_2供給下の37℃ Krebs液内で血管の等尺性張力を記録した。KCl(60mM)による脱分極の後、昇圧物質のnorepinephrine(NE、10^<-10>M〜10^<-5>M)の収縮反応に対するNIC(10^<-8>M〜10^<-6>M)の抑制効果をみた。〔成績〕食塩負荷SHR群では、非負荷群に比較して、高血圧の持続期間が延長することが特徴的であった。各摘出胸部大動脈のNEに対する収縮反応は、α受容体拮抗薬(phentolamine、10^<-5>M)で完全に阻害され、β受容体拮抗薬(propranolol、10^<-5>M)では変化がみられなかった。SHR群の60mMK^+に対するNEの最大収縮比は、1%負荷群で1.67、1.5%負荷群で1.80と亢進し、pD_2値(-logM)は非負荷群の8.53±0.17に対し、各々8.74±0.82、8.80±0.25と高値を示した。また、Ca^<2+>free液内では収縮反応の低下がみられた。一方、NICのNEに対する収縮の抑制はSHR群、WKY群とも濃度依存的であり、その効果は、SHR>WKY、食塩負荷群>非負荷群であった。〔結論〕食塩を負荷した妊娠SHR群における血管平滑筋収縮の亢進には、細胞外Ca^<2+>のmobilizationが考えられ、PIH時におけるCa^<2+>拮抗剤投与の合目的性を示唆するものであった。
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