研究概要 |
胎児肺成熟調節因子とその作用機序を解析する目的で、臨床的に胎児の肺成熟度に影響を及ぼすことが知られているいくつかの因子について検討した。 前期破水の場合、羊水中のphosphatidylglycerol(PG)が150〜250nmol/dlの症例では、破水後約24時間で急激なPGの増加がみられ、出生児にも呼吸障害は認められなかった。しかし、羊水中PGが100nmol/dl以下の症例ではこのようなPGの増加は認められず、破水後3週間目に分娩した症例でも児に呼吸障害が生じた。従って、破水後肺成熟が促進されるためには、ある程度の肺成熟状態が必要であると考えられた。 糖尿病合併妊娠では、胎児肺成熟の遅延が生じやすいとされているが、今回検討した50例の糖尿病合併妊娠のうち、軽症例(White分類A,B,C)37例中31例で正常対照群平均値より低いPG値を示した。しかし、血管病変を伴う重症型(White分類D,F,R)では、13例中12例で正常例平均値以上のPG値を示した。羊水中phosphatidylcholine(PC)濃度は、一定の傾向を認めず、正常群と同様の分布を示した。胎令ごとの生下時体重別に羊水中PG、PC値を比較すると、SGA群ではPG値の有意の増加が、LGA群では有意の低下が認められた。PG値は同様の傾向は認めるものの有意差がなかった。SGA群では羊水中カテコラミンが増加していることが多く、慢性的なストレスの状態にあったと考えられ、これが肺成熟促進と密接に関与している可能性が示唆された。糖尿病における胎児肺成熟遅延と高血糖との関係を明らかにする目的で、妊娠16日目にストレプトゾトシン40mg/kg投与して作成した糖尿病ラツトでは、胎仔肺組織中のPG濃度のみが特異的に抑制され、これと共役した型でphosphatidylinositol濃度が増加していたが、PC濃度は対照群との間に有意差を認めず、ヒトの糖尿病合併妊娠の場合と同様の変化が生じていることが明らかとなった。
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