研究概要 |
昨年度の研究では, 糖尿病合併妊娠のうち, 巨大児を生ずるような比較的軽症型の糖尿病を合併した妊婦から生れた新生児では, 肺の成熟遅延が起り, サーファクタントでも特にホスファチヂルグリセロール(PG)の低下が著明であるが, 血管病変を伴い, 胎児発育遅延となるような重症型の糖尿病では, むしろ胎児肺成熟が促進され, 羊水中PGは正常群に比して高値となることを明らかにした. また, 羊水中のサーファクタントのPG濃度は, 同一試料羊水中のカテコラミン濃度と有意の相関を示した. そこで, 本年度は, 子宮内胎児発育遅延を示すことが知られている喫煙妊婦のモデルとして妊娠家兎に連日ニコチンを投与し, 胎仔発育ならびに胎仔肺サーファクタント生合成分泌に対する影響を検討した. その結果, ニコチン投与により, 子宮胎盤血流の低下に起因する胎仔発育遅延が生じ, 仔体重は有意に低下した. 肺サーファクタントのうちホスファチヂルコリン(PC)もPGも, 有意に低下していたが, 羊水中のPC, PG濃度は対照群との間に有意差がなく, ニコチン投与群では, 肺II型細胞から肺胞内へのサーファクタント分泌が促進されていると考えられた. この成績は, ヒト喫煙妊婦において羊水中L/S比が変らないにもかかわらず, 新生児の呼吸障害が非喫煙妊婦より少ないとの臨床報告と一致している. 胎仔血中及び羊水中のカテコラミンがニコチン投与群では高値であったことより, サーファクタント分泌の亢進には, ストレスに反応性に分泌されたカテコラミンの関与が推測された. 生体内でメチル基供与体として重要な役割を担うビタミンB12欠乏状態では, PC生合成の低下傾向がみられたが, 有意差を得るには至らなかった. これは, 胎盤に強力なB12輸送機構が存在することと共に, 胎盤から分泌されるプロゲステロンが, トランスコバラミンIIを増加させるため, 胎仔へのB12供給が母体側ほど低下しないことに起因すると考えられた.
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