体外受精胚移植 (IVF-ET) の過排卵周期を中心として、一過性高プロラクチン (PRL) 血症の排卵、卵成熟、受精分割、更には妊娠成立に及ぼす影響に関して検討を加えた。 1.ヒトIVFにおける過排卵周期の血清PRLは、排卵期に急激に増加し、更に黄体期においても高値を持続した。卵胞液PRL濃度は、その値には大きな差異が存在しており、血清PRL濃度との間に相関は認められなかった。PRL濃度とIVF成績を比較検討した結果、血清及び卵胞液の高PRL状態は卵の成熟、受精分割を直接障害せず、また妊娠成立にも影響を与えないことが明らかとなった。しかし一過性高PRL血症により、黄体機能不全が起る可能性は否定できなかった。 ヒト血清PRLには分子量の異なる三つの形が存在し、大分子PRLは生物学的活性が低いことが明らかとなった。また血清のheterogeneous PRLの構成比には大きな個人差が存在し、大分子PRLの割合により規定されるPRLの生物学的活性と卵巣機能は良く相関することが判明した。 3.家兎卵巣潅流法を用い、PRLの卵成熟と卵胞壁破裂機序に及ぼす影響について検討した。その結果、PRLは卵核の成熟に抑制的にも刺激的にも作用しなかったが、in vitroで惹起される排卵を抑制したことから、PRLの卵巣特に卵胞への直接作用が示唆された。 以上一過性高PRL血症の妊娠成立に及ぼす影響に関し検討を加えた。本研究は主に過排卵周期という極めて限定された条件下であったことなどを考慮し、今後は更に対象を拡大し、またPRLの生物学的活性という側面からも検索を進めていくことが、一過性高PRL血症の意義を解明するための課題として残されていると考えられた。
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