頭部外傷において、髓液鼻漏がある場合、髓膜炎合併の危険性が高くこの有無を確認することが、治療方針を立てる上で極めて重要である。本研究においては、髓液中に特異的に存在するタウ型トランスフェリンを鼻汁成分の分析からその有無を明らかにすることを目的とした。まず鼻汁の採取方法の検討では、鼻汁が大量にみられる場合は吸引操作により鼻汁を採取し、鼻汁が少量の場合は特殊スポンジ(メロセールスポンジ)にて鼻汁を集めこれを採取する方法を確立した。タウ型トランスフェリンの検出には、従来の方法では髓液を濃縮しなければこれを検出しえなかったが、本研究により開発した方法、すなわち電気泳動、免疫固定、銀染色を組み合わせる方法では、濃縮することなくタウ型トランスフェリンを検出することが可能となった。サンプル量も4μlの微量にて、その目的を達することが可能となった。本研究により開発された方法は、従来の方法より50-100倍感度が高い。また微量にて測定できるという利点を有している。 本法を用いて、アレルギー性鼻炎患者5名の鼻汁を採取し、それらのすべてにタウ型トランスフェリンが存在しないことを確認したあと、交通事故による頭部外傷患者3名につき、その診断価値について検討した。その結果、全例にタウ型トランスフェリンを検出し、頭部レントゲン検査、手術所見と一致する所見をえた。本法の臨床応用への道が開かれた。この方法を用いて、今後症例数を増してさらに検討を深めることを予定している。
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