船坂はすでにバイオセラミックスの一種であるハイドロオキシアパタイト板を用いて動物実験、臨床試用を実施し、ハイドロオキシアパタイト骨と化学結合をして一体化すること、異物反応がなく吸収されないことを確かめていた。この実験に基づき昭和61年度は1)鼓室形成術52例に応用し、その成績を検討する、2)ハイドロオキシアパタイトをテフロンで被覆した耳小骨を試作し、臨床応用を試みる、3)ハイドロオキシアパタイトを使用した症例の中耳機能を検査するための新しいインピーダンスメータの試作を行った。 1)については、施行52例のうち、失敗例といえる真珠腫再発は僅か2例で、他材料を用いた症例24例では6例に再発をみている結果と比較して、きわめて好成績であることが実証された。また炎症が再発した2例の再手術時に採取した標本の組識学的検討から、マクロファージュに貪食されているアパタイトの小片が見出された。すなわちきわめて生体適合性の良いハイドロオキシアパタイトでも炎症時の使用には充分慎重でなければならないと結論された。2)については、人工耳小骨の場合生体と結合の良いハイドロオキシアパタイトの特徴はむしろ医原性耳硬化症を作る危険があり、これを克服するための新研究である。予想通り、この人工耳小骨はうすい正常の肉芽組識で覆われ、可動性は良好であった。しかしアブミ骨との接着は必ずしも良好でなく、今後アブミ骨との接着部位(アパタイト露出部位)の面績を広くするなどの工夫が必要であると結論された。3)については連続周波数チンパノメトリーと称する新しい検査器の改良に成功し、50例の正常耳と40例の耳小骨異常耳について、本器による検査を施行した。そして正常と異常、耳小骨異常の中での離断と固着の弁別に有用であることが示された。今後ハイドロオキシアパタイト耳小骨の接着状態の追求に応用するつもりである。
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