本研究は、一連の実験的緑内障の研究の一つとして実施された。今回のテーマは、篩状板後方の視神経の微小循環生理である。ニホンザルを開頭し、篩状板の1ミリ後方に100ミクロンの白金電極を刺入し、水素クリアランス法で経時的に血流量測定を行なった。その結果、正常血流量は120ml/分/100グラムであった。眼圧を上げると血流量は低下し、その減少率は30ミリ水銀柱で16%、50ミリで34%、70ミリで63%であった。その減少曲線はほぼ直線的と言えるが50ミリ水銀柱から70ミリでやや急峻であった。各高眼圧は90分間維持されたが大きな血流変化はなかった。さらに、70ミリ水銀柱から正常眼圧(15ミリ)に戻すと速やかにほぼ初期血流量にまで回復した。以上の結果を考按すると、まず平均血流量は前回我々の求めた篩状板前方の血流量106ml/分/100ググラムと同程度であり、視神経が篩状板前・後で豊富な血流を供給されていると判断された。しかし、高眼圧下では直線的に血流量が減少するのみならず、一定高眼圧の持続期間中での血流回復も見られないので、所謂オートレギュレイションはないと言え、高眼圧に対して脆弱な組識であることが判明した。 以上の知見は、シュナーベルの海綿状変性や緑内障性陥凹の原因論に新しい視点を提供し、さらに緑内障分類や緑内障性視野欠損の病理の再検討を促すものである。斯様に水素クリアランス法は微細な電極で毛細血管レベルの組織血流量を何回でも測定できるので、同一部位の経時的変化を見るのに最適である。今回の成果を受けて、一層測定の難しいとされる網膜の血流量とその高眼圧に対する反応形式を解明し、さらに前々回の毛様体の知見も加えながら、多電極同時測定を実施して諸々の眼内組織の高眼圧に対する反応形式の特性とその生理学的意味について検索していく。
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