ヒト老人性白内障を究明する1つの手段として、近年、自然発症モデルが注目を集めているが、従来の遺伝性白内障マウスはその混濁発現までの期間が生後約1ケ月と短かく、必ずしも良い材料と言えなかった。最近米国で見出されたエモリーマウスは遺伝性白内障の系統でありながら混濁発現が6〜8ケ月と緩徐な症状進行を示し、ヒト老人性白内障に最も近似の動物モデルとして注目を集めていた。我々はこのマウス白内障の発生機序について病理学的な面から検討を試みた。 方法として、生後1週齢から15ケ月齢までのエモリーマウスを4%グルタールアルデヒド液で固定し、光顕と電顕で調べた。試料の1部はCarn'ey液で固定し、水晶体上皮伸展標本を作製した。対照としてほぼ同齢のddy系マウスを用いた。 エモリーマウス水晶体は、生後間もなく(2週齢)から水晶体上皮が絶えず欠落する遺伝性の欠陥を有することが見出された。しかし、この欠陥は比較的軽徴で、水晶体の発達も良く、長期間透明性を維持できたが、持続的に上皮欠落が生じるため水晶体の加齢性変化が早期に出現し、これらの変化が重篤となって混濁が発生することが判った。 この実験モデルは水晶体の透明性維持には上皮のviabilityが重要な要因となっていることを暗示しており、ヒト老人性白内障の成因を考慮する上で示唆に富むモデルであるように思われた。
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