研究概要 |
歯肉炎と区別するL線的, 組織学的基準の一つに歯槽骨の破壊の有無があげられ, 辺縁性歯周炎では, 炎症により破壊された歯周組織は, 結合組織と上皮により埋め合わせられる, いわる修復による創傷治癒が進行する. その結果として歯肉は退縮し, 歯周ポケットが形成される. その過程で歯周組織には種々の病的変化がみられるが, ヒトの辺縁性歯周炎による歯槽骨頂の破壊部位の修復に関する報告は少ない. 本研究では, 6才から91才までの全身性骨病変を除いたヒト病理解剖体126例の顎骨の脱灰, 非脱灰標本の連続切片を光学顕微鏡・超音波顕微鏡・CMR・電子顕微鏡等で観察し, 以下の結果を得た. 1.正常:歯槽骨頂は骨単位および層板構造を示す固有歯槽骨と支持骨とよりなり, セメント質から歯槽骨頂に走る歯槽頂線維がみられた. 2.初期:歯肉の炎症が内縁上皮下に限局し歯槽骨頂にI型コラーゲンの線維束の断裂・破壊がみられた. 3.活動期:破骨細胞を中心とした骨破壊がみられ, I型コラーゲンの破壊が著しかった. 4.発展期:骨破壊部に幼若肉芽組織をみ, 歯槽骨頂側と骨髄側とから骨破壊が生じ, I型とIII型コラーゲンが混在し, 骨基質コラーゲンは弾性が増していた. 5.休止期・再生期:炎症性細胞はわずかで骨破壊部はI型コラーゲンが目立つ瘢痕組織で補填され骨の新生をみた. 6.組織学的計測により, 歯槽骨頂の破壊の程度は, 付着上皮の根尖側への深行増殖の程度と比例している(相関係数0.922)が, 歯槽骨頂上の歯肉軟組織の厚さは歯槽骨頂の破壊・付着上皮の深行増殖と相関は小さく(0.207), ほぼ一定だった. 7.歯肉炎と歯周炎の病理組織学的分類には, 上皮の結合組織・セメント質への増殖・伸長の程度, 歯肉を構成する結合組織の破壊の程度と局在, 骨破壊部の結合組織の質的性格, 歯槽骨の骨髄炎の有無などが重要と考えられた. 8.今後, 辺縁性歯周炎の実験モデルによる展開を試みる.
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