口蓋領域の諸形態は基礎歯学の分野においては、歯の形質に関して霊長類を基礎としたヒトの歯の形の進化や歯の人類学ならびに歯の遺伝学の研究に幾多の成果が挙げられてきたものの、口蓋の形態に関しては十分にその実態が解明されていない。 口蓋の形態は近遠心的にも、頬舌的にもそれぞれの曲面をつくり、それらの曲面上で曲線は互いに絡み合って複雑な三次元の穹窿の世界を構成している。この形状が口蓋形態の研究を遅延させている事由の一つであろう。 口蓋の形態の双生児法に基づく遺伝学的な本研究には二つの方法がとられた。 一つは双生児の上顎歯列口蓋模型をモアレ写真撮影方法で撮影し、その口蓋模型上に描かれた等高線縞模様を双生児で比較するとともに、その画像をデジタイザーマイタブレットIIによって三次元画像解析システムに導入し、正中矢状断面像、小臼歯部の前頭断面像(第一小臼歯)、大臼歯部の前頭断画像(第一大臼歯)をそれぞれ曲線の抽出して双生児での類似性を尋ねる。正中矢状断面像からは、前歯部は一卵生双生児でも組内差がみられる処で、とくに近遠心的測度での遺伝的安定度が低い。前頭断面像からも、臼歯部は前歯部に比較して遺伝的安定度が高い。口蓋は断面像を総合してみると、口蓋は全体として遺伝的な纒まりを示している。 二つ目の方法は組内差の分布に着目して、組内差分散(intra variance Σd^2/N・d:組内差、N:組数)を口蓋各部の直線径とそれに基づいて算定した径および面積での一卵性双生児と二卵性双生児との比較である。口蓋の前歯部の長さ(近遠心径)は一般的遺伝的な安定度が低く、臼歯部は前歯部に比較すると各径および面積ともに遺伝的によく安定している。また、口蓋は全体として遺伝的に纒まっている。
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