研究概要 |
本年度は研究実施計画に基づき、う蝕継発性歯髄炎ならびに実験的化学的歯髄炎の初期病変について電顕的観察を主体とした検索を行った。 材料と方法:1.ヒトう蝕継発性歯髄炎 歯髄炎症状を示す上下顎第3大臼歯を抜歯後,直ちに歯を分割して、う蝕直下歯髄組織を摘出、2%グルタールアルデヒド・2%パラホルムアルデヒド液で固定した。2.実験的化学的歯髄炎 成犬の下顎第1,2大臼歯の歯髄を露出後,レジンモノマーを綿球で貼布(15分間),その後5,20,60分後にインデアンインクを静注した。次に2%グルタールアルデヒド・2%パラホルムアルデヒド液で灌流固定して歯髄組織を摘出した。電顕標本は常法に従い、観察は日立H800型透過電顕で行った。また接着性レジンに関する歯髄への影響を調べた。 結果と考察:1.ヒトう蝕継発性歯髄炎の初期病変 う蝕直下歯髄では、軽度,ビマン性なリンパ球,形質細胞が血管周囲に浸潤していた。また、トルイジン青染色で小血管周囲にトルイジン青好性な層状構造がみられた。血管周辺はしばしば浮腫状を示すが、コラーゲン線維の増生をきたしているものもよく観察された。電顕的には、小血管基底膜に多様な変化がみられた。これら小血管基底膜は肥厚、不規則な層状化が観察された。また、層状化した基底膜は断裂し、不連続となっているものもよく認められた。浸潤しているリンパ球は表面が平滑で、突起の少ないT細胞様の所見を示すものが多く観察された。2.実験的化学的歯髄炎 モノマー貼布後5〜20分の歯髄では、強い炎症性浮腫を呈していた。電顕的に、小血管の内皮細胞間にいわゆるgap形成が観察され、カーボン粒子が、血管外に浸出していた。また、好中球が内皮細胞間より血管外に浸潤する像もみられた。以上の所見より、う蝕継発性歯髄炎の初期病巣では、くり返し浸出機転が起っていることが示唆され、化学的歯髄炎と病態が異なる。
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