研究概要 |
昨年度及び本年度にわたり, ヒト齲蝕継発性歯髄炎における精神線維, Scwann細胞の超微形態学的検索を中心に行った. また, 昨年度の研究成果と本年度の研究成果とに基づき, ヒト歯髄炎の病態とその臨床病理学的分類について検討した. 材料と方法:急性歯髄炎症状を示すヒト齲蝕歯, 15歯を研究試料とした. 齲蝕歯はすべて上, 下顎第3大臼歯であり, 抜歯後直ちに2分割して, 齲蝕下歯髄組織を摘出, 細割し, 2%グルタールアルデヒド・2%パラホルムアルデヒド液で固定した. 電顕標本は常法に従ってエポン812に包埋し, 超薄切片に酢酸ウラニール・鉛染色を施し, 日立H800透過電顕で観察, 撮影した. 結果:光顕的に10/15症例は, 高度な好中球浸潤を示す化膿性炎の所見を示していた. 炎症巣中には, しばしば, 不規則に蛇行した無髄神経線維束が観察され, 時に螺旋状, 渦巻状小塊を呈するものもみられた. 一方, 5/15症例では, 炎症性細胞浸潤が欠如し, 線維化と無髄神経線維が結節状増殖して, いわゆる外傷性神経腫様病変を呈していた. 電顕的に, 化膿性病変に観察される無髄神経束は種々の量のコラーゲン線維に囲まれ, 強く波状に屈曲しているが, 軸索, Schwann細胞の超微構造は保持されていた. コラーゲン線維消失部位でも, Schwann細胞のbasal laminaは連続性を保っていることが多いが, 時に軸索が空胞化, 膨化していた. 一方, 外傷性神経腫様病変ではSchwann細胞が網状増殖し, 軸索が不規則に分布していた. 総括:ヒト齲蝕継発性歯髄炎は, 齲蝕病変による慢性的刺激により複雑な過程をとって進展することが明確となり, 化学的・物理的歯髄炎とは発症機序が異なると考えられた. また, 齲蝕継発性歯髄炎にみられる激しい急性症状と無髄神経の分布との間に重要な関係があると思われた. 最後に, 我々は次のような齲蝕継発性歯髄炎の病理学的分類を提案する. :1.初期病変, 2.化膿性病変, 3.肉芽腫性病変, 4.歯髄壊死, 歯髄壊疸.
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