咀嚼運動に重要な役割をしている歯根膜機械受容機構の研究が主として未梢での受容器の性質に関するものに集中していた。しかし、咀嚼機構との関連でとらえる場合、中枢機能にはたす感覚情報として考えなければならない。そこで、咀嚼運動の中枢機序を知る上で重要な歯根膜機械受容器の大脳皮質体性感覚野及び視床レベルでの情報処理機構をすでに未梢レベルで知られている結果と比較しながらネコを用いて電気生理学的に明らかにした。その結果、 1.視床での歯根膜機械受容ユニットの性質は、未梢(第1次ニューロン)とやや異なり、速順応性ユニットの発現が著しく、未梢では10%ほどの出現に対し、視床では50%以上であった。方向性についても未梢と同じく明暸に存在していた。但し、未梢ニューロンと著しく異なっていたのは、自発放電の存在であった。未梢ではほとんど見られないのに反して、視床ではほとんどのユニットが自発放電を有していた。 2.大脳皮質での歯根膜機械受容ユニットの性質は、未梢や視床とも異なり、ほとんどが速順応性であり、遅順応性のユニットはほとんど見い出せなかった。自発放電は視床ニューロンよりも激しかった。方向性については系統的な調べが出来なかったが、わずかな方向特異性が存在することは確実であった。我々の今回の実験では調べなかったが、三叉神経主知覚核での歯根膜機械受容ユニットでは、自発放電は見られなかったとの報告があることから、自発放電は視床ニューロンおいて現するものと考えられる。また方向特異性は、大脳皮質体性感覚野において大きく減弱するものと考えられる。順応性については、上位中枢にいくにつれて速順応性が増加することが観察された。
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