研究概要 |
象牙芽細胞の分化を研究する上において、象牙芽細胞の表現型が重要であり、これを分化のマーカーとして研究を進める必要がある。象牙芽細胞分化のマーカーとして、生化学的には【I】型collagen,Gla-protein,phosphophoryn等の象牙質基質の産生,形態学的には細胞の極性,産性した基質の石灰化等が考えられるが、種々の理由から分化のマーカーとして用いるには制約がある。象牙芽細胞は高度に機能分化しているため、象牙芽細胞に特有な細胞膜、あるいは細胞質成分が存在すると考えられる。そこで、モノクローナル抗体の手法を用いて、象牙芽細胞に対するモノクローナル抗体の作製を試みた。 ラット切歯より集めた象牙芽細胞をBALB/Cマウスに2回腹腔内注射し、その3日後にマウスの脾臓をとり出し、ポリエチレングリコールを用いて通法により脾細胞とmyeloma株細胞を融合した。歯髄組織の凍結切片を作製し融合細胞(hybridoma)の培地を用いて間接蛍光抗体法を行ない、象牙芽細胞に対する抗体を産生するhybridomaをスクリーニングし、限界希釈法によりcloningを行なった。その結果、ラット象牙芽細胞を特異的に認識するモノクローナル抗体を得ることができた。この抗体は蛍光抗体法の結果より、ラット象牙芽細胞の象牙前質に接した遠心部分に結合し、抗原物質の分子量はimmuno-blotting法により38Kと推定された。現在、この抗原物質について生化学的に検索を進めている。 我々は以前より、ラットにcolchicineを大量投与すると、既存の象牙芽細胞が壊死に陥り、歯髄の未分化間葉細胞が象牙芽細胞様細胞に分化する現象について報告した。本研究において得られたモノクローナル抗体は、正常な象牙芽細胞はもちろん、colchicine投与後新たに出現する象牙芽細胞様細胞をも認識することにより、象牙芽細胞の分化に関する研究を進めていく上で、有用な手段となるものと考えられる。
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