研究概要 |
ネコの大脳皮質冠状回、体性感覚領口腔投射野にボール電極を置き、上下・左右犬歯,臼歯8本の歯牙に試験刺激(強さ20〜30Volt、通電期間0.5msec)を与え、歯髄性誘発電位を記録しながら、辺縁系・扁桃核・海馬に330Hz(パルス巾0.2msec.通電期間100msec、強さ500μA)の条件刺激を与え、歯髄性誘発電位に及ぼす辺縁系の刺激効果を観察した。 1.歯髄性皮質誘発電位は2峯性の初期電位(【P_1】,【N_1】,【P_2】波)とそれに続く緩電位(【P_2】波下降脚=【N_2】波)よりなっていた。2.【P_1】波はartifactの混入を受けやすく不安定な値を示すが、【N_1】波、【P_2】波は安定した棘波として観察され、これら【N_1】波と【P_2】波の振巾ならびに【P_2】波の下降脚を主たる計測の対象とした。3.今までの観測の範囲内では扁桃核(【A_(13〜11)】、【L_(8〜10)】、【H_(0〜-6)】)の条件刺激は誘発電位の振巾に著るしい影響を及ぼさなかった。4.しかし、海馬の条件刺激により、【N_1】波、【P_2】波および【P_2】波下降脚は明らかに促進または抑制を受けた。5.この促進と抑制は海馬およびその近旁(特に嗅内野など)の刺激部位に依存して変化した(【A_(3.0〜6)】、【L_(9〜12)】、【H_(3〜-3)】)。6.海馬条件刺激の効果は【P_2】波下降脚>【N_1】波>【P_2】波の順で【P_2】波下降脚は著るしく受けやすく、約30mVの陥凹が見られた。7.条件刺激一試験刺激間隔を系統的に変えたところ50〜350msecのあいだ抑制を受けた。8.これらの事実は歯髄刺激により誘発されるsecond pain(遅い痛み)は精神的不安などの情動変化により、あるときは増強して受容され、極度の不安のときは痛覚受容が低下するという精神物理的現象をうらづける所見と解釈された。
|