ジエチルスチルベストロール(DES)はヒトや実験動物に癌を起こすが、他の多くの癌原性物質と違って、バクテリアや哺乳類細胞を用いた数々の突然変異実験系では突然変異性が検出されない。我々はこれまでDESを培養シリアン・ハムスター胎児(SHE)細胞に作用させるとDNA傷害や遺伝子突然変異、染色体異常は起きないが、染色体の数的異常(Aneuploidy)が起こり、細胞が形質転換すること、また、DESにはコルセミドやビンクリスチンのようなmitotic inhibitor(細胞分裂期阻害剤)様作用があること、SHE細胞にはエストロジェン・リセプターがないこと、さらにエストロジェン作用の強弱と形質転換率がcorrelateしないこと、などから、DESによる発癌は、エストロジェニックなホルモン作用で起こるのではなく、染色体レベルの遺伝的変異で起こると報告してきた。一方、DESをラット肝ミクロゾーム分画存在下でSHE細胞に作用させると、DNA傷害が誘導される。そこで今年は、肝ミクロゾーム分画存在下でDESがSHE細胞に突然変異や形質転換を誘導するかどうかを調べてみた。その結果、DESの突然変異性は肝ミクロゾーム存在下でのみ現われ、形質転換誘導能は肝ミクロゾーム存在下で増強された。これらの結果からDESの細胞形質転換誘導の機構には2つあることがわかった。1つはDNA傷害が関与しない系と、もう1つはDESの代謝産物によるDNA傷害の関与する系である。 本研究費で講入した顕微鏡で細胞や染色体の観察を行った。
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