歯齦被弁手術における結合組織性新付着を良導する手術法に関する研究の最終年度においては、昭和61、62年に行った基礎的な実験の成績をふまえて、臨床応用を試みた。臨床応用に関しては、東京歯科大学付属病院を訪れた患者で、補綴治療上、要抜去と診断された歯周炎を有する患者にクエン酸を応用した歯齦被弁手術を行った。手術後12週目に歯牙を含む歯周組織を一塊として抜去し、通法に従いセロイジン包埋した。染色はH・E染色を施し、光学顕微鏡で検索した。また一部は通法に従い超薄切片を作製し、電子顕微鏡を用いて検索した。成績および考察、光顕的検索では根表面には象牙質が露出しており、歯齦縁部においては歯根面に沿って根端側方向に上皮細胞の進入が認められ、一部上皮性付着を生じていた。さらに根端側方向に進むに従い、長い範囲で根表面に平行に、あるいはやや角度を有した多数の膠原線維束が根表面と結合組織性再付着を形成していた。つぎに、上皮性付着部と結合組織性再付着部を透過型電子顕微鏡を用いて検索した結果、根端側部の再生上皮細胞層では、細胞内小器官が発達し、隣接細胞とはマイクロビリー様小究起により嵌合状態を形成し、一部デスモゾームも認められたが、ほとんど多形核白血球は認められず、細胞質内の空胞様構造物もあまり認められなかった。一方、歯冠部付近の上皮細胞ではプラークによる影響が認められ細胞内小器官は発達しておらず、細胞間隙は著しく拡張し、多形核白血球の遊走が認められ、基底膜は断裂を生しでいた。再生上皮細胞と歯牙表面とは、ハーフ・デスモゾーム及び基底膜様構造により付着しており、幅の広い顆粒層の形成が認められた。結合組織性再付着部では、白亜質芽細胞が白亜質表層に究起を出しているのが認められ、種々の方向に不規則な走行を示して白亜質内に進入しているのが観察された。
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