歯科用金属材料が生体液に溶出して毒性の問題や補綴物装着時の歯頚部歯肉の変色の問題や金属インプラント周囲組織の炎症の問題がひき起こされる。本研究はアミノ酸や蛋白質を含む生体液中における歯科用合金の溶出挙動と1%NaCl水溶液と、人工唾液について同様の実験を行った。 実験1.電気科学的挙動 市販Ag-Pd-Cu-Au合金を1%NaCl水溶液、人工唾液および唾液に浸漬し、腐食電位とアノード分極挙動を測定し、アノード分極に伴う表面の変化を光顕および電顕観察、X栓回折で調べ、溶液のちがいによる腐食挙動の違いを検討した。その結果、1%NaCl水溶液および人工唾液では350mV付近からの電流密度の増加が急激であった。この時期は表面組織が変化する時期に対応していた。唾液では、曲線全体は緩やかに上昇し、表面に変化が見えはじめる750mV付近からの電流密度の立ち上がりは緩やかで表面組織に変化の現れる区間も長い。1%NaCl水溶液、人工唾液および唾液で試料表面にAgClが形成された。 実験2.表面状態と溶出試験 つづいて、市販Ag-Pd-Cu-Au合金と2種の歯科用ベース合金を1%NaCl水溶液、唾液および血清に浸漬し、浸漬に伴う表面状態の変化を電顕で観察するとともに、成分元素の溶出量を原子吸光で測定した。その結果、1%NaCl水溶液に浸漬した試料表面には何の変化も認められなかったが、唾液および血清に浸漬した試料表面にHAPが形成された。また唾液に浸漬した試料のCu溶出量に合金の組織構造のちがいによる差が認められた。
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