研究概要 |
近年, X線診断の立場より, 放射線顎骨骨障害の最も初期の徴候として, 歯根膜腔の拡大の認められることが指摘されており, 照射による歯槽骨代謝異常がその原因と考えられている. そこで, 本研究では放射線照射による歯根膜腔拡大の発現過程の一端を明らかにする目的で, 動物実験を行い, 照射による歯槽骨改造現象への影響について定量的に検討を加えた. 実験には雄性ラットを用い, 歯槽骨にCo-60γ線一回照射を行った. 組織線量は20, 40, 60, 80及び100Gyとし, 照射後6時間, 1, 3, 6, 14, 26, 54, 110及び166日目における歯根膜組織及び歯槽骨改造現象の変化を, 非照射群を対照として, 摘出下顎骨の脱灰普通染色標本及び非脱灰研磨標本(蛍光物質によるラベリング)を行い, 以下の結果を得た. 1.照射群では, 蛍光物質によるラベリング面積の割合が照射後14-26日目には対照群と比較して明らかな減少を示した. 以後の期間では, 蛍光物質によってラベルされた全面積の割合は, 観察期間を通じて常に対照群よりも小さかった. 2.歯根膜を構成する線維芽細胞, 骨芽細胞, セメント芽細胞には, 照射後核濃縮が認められ, 経時的に著名となった. これらの細胞は照射後3-6日目あるいは26日目までに著名な計数値の減少を示し, 以後も次第に減少する傾向を示した. 破骨細胞は照射後一旦減少する傾向を示したが, 14日目以降対照群と同程度の計数値を示した. 以上の結果から, 放射線照射後の歯槽骨のBone remodelingは, 照射による造骨系細胞の質的及び量的変化によって, 造骨機能が低下し, 骨添加に対して骨吸収が相対的に増加した状態となっていることが示唆された.
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