研究概要 |
Actinomycesは歯根面に対する齲飾誘発性ならびに歯齦炎の主たる病原菌として、これまで多くの研究が報告されてきた。本研究の第1の目的は、Actinomycesのこれらの疾患に対する病原性の抑制手段の観点から、口腔内モデルを用いた本菌の糖質代謝におよぼすフッ化物の作用とpH変化の影響を検討することとした。本研究に供試したA.viscosusは、口腔内モデルを想定した連続培養法により培養し、フッ化物の作用を調べるためにNaFにて培地中【F^-】濃度を0〜500ppmに調製した。さらにpHの影響を検討するためにPPBにて培地中pHを5.0〜8.0に設定した。また、解糖活性測定の反応槽内でも培地中と同様の【F^-】濃度およびpH変化の条件を設定した。この結果、NaF添加後のA.viscosusの解糖活性は、50ppm【F^-】まではフッ化物耐性を示したが、これ以上の濃度では【F^-】濃度に依存した活性の低下を示した。これはFermentation productsのAcetateおよびFormateとLactateの構成比率に関連し、【F^-】濃度の上昇につれてLactateの割合が高くなることから、【F^-】による解糖経路の変化が示唆された。pHの変化と解糖活性については、pH7.0〜7.5で最も高い活性を示し、pH5.0では30%前後まで低下した。フッ化物の添加はさらにこの傾向を強めpH低下と【F^-】濃度の相乗的な解糖活性の抑制効果が明らかとなった(歯科基礎医学会,71,1986)。しかしながらA.viscosusはNaF添加培地での長期間培養により、解糖活性の回復現象も観察されることから(歯科基礎医学会,72,1986)、解糖代謝中間体の測定による代謝経路の変化の解明が必要である。 次に口腔内モデルにおけるA.viscosusによるenamelおよびcementumの脱灰状況の観察をレプリカ法を用いて行った。cementumに対する脱灰性の強さは、enamelに比較して明確であったが、定量・定性的なデータを得るまでには至っていない。今後さらに実験条件を検討し、本菌のcolonizationの状態も含めた脱灰現象を解明するつもりである。
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