研究概要 |
矯正歯科および一般歯科臨床において, 顎顔面部の成長発育段階を把握することは, 極めて重要な事柄である. 従来から手根骨を用いた骨年齢あるいは身長, 歯牙年齢等による顎発育状況の推定方法はあるが, 応用方法や手技について煩雑な面が多く, 日常臨床分野での活用が十分行われ難いのが現状である. 本研究の目的は, 顎骨の成長発育の過程を観察するために, 拇指末節骨の化骨, 癒合現象すなわちep-iphysisの出現, 化骨からdiaphysisとの完全癒合に至るまでの変化と顎顔面頭蓋の成長発育との関連性を追求し, 一つの指標とすることにある. 本年は, 以前より継続的に行なっている研究内容のうち, 拇指末節骨の骨化, 癒合現象の増齢に伴う推移と, 身長の成長発育との関連についてさらなる検討をし, 日本矯正歯科学会誌46巻3号に論文報告を行った. その内容は, 拇指末節骨のepiphysisとdiaphysisは各々増齢的にその厚径を増し, epiphysisとdiaphysisの厚径比率(E/D)値も増齢に従い増加し, この変化は女子が男子に比べほぼ2年先行し, 男女間に明確な性差が存在した. また完全癒合の時期と身長との関連においては, 拇指末節骨の完全癒合時期は身体の成長発育段階の後期に位置し, 完全癒合時期の2, 3年前にいわゆる思春期発育のピークが存在する. したがって, 完全癒合時期以降大きな成長発育は期待できないとの結論に達している. さらに本年は, このepiphys-isとdiaphysisの完全癒合時期について, 継続的追求より顎顔面骨格の成長発育においてもほぼ終末に近い段階であるとの理解にのっとり, 臨床治験例を用いて, 拇指末節骨の骨化癒合現象の臨床応用への試みを行った. これにより, 日常矯正臨床における有効なる治療タイミング, 矯正装置の適応の選択と適格な抜歯時期等における指標としての価値を認め得た. この内容については, 第46回日本矯正歯科学会にて報告を行っている.
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