研究概要 |
本年度はAK-Toxin 【II】のメチルエステルの全合成を達成した。ビタミン Cを光学活性原料として、10数行程を経て光学異性体として純粋なToxin メチルエステルの合成を完了することが出来た。 本研究の目的の一つに毒素の毒性発現とその構造の関係の解明がある。この点についても一応の成果を収めることが出来た。すなわち毒素の構造中、炭素鎖11のトリエンカルボン酸部のもつ二つの不斉中心の配置に関して、少くともフエニルアラニンとエステル結合する二級アルコール部の不斉炭素の配置はR-配置、それに隣接する不斉炭素の配置はS-配置であることが毒性発現に不可欠であるとの結論を得ることが出来た。植物病原菌の生産する毒素の化学構造中の立体化学が植物に対する毒性の発現と直接関係する点を明確に示したのは本研究が最初であろう。一方、トリエン部の炭素鎖に関しては その共役の長さ、つまりモノエン体,ジエン体,それにトリエン体とするにつれて毒性の増強が認められた。また、フエニルアラニン部については、α炭素の不斉性は毒性に直接大きく関与していない結果が得られた。尚、アセチル化されているアミド基のN-H基が毒性発現に必須であるか否かは今後の研究にまつことになる。 宿主特異的毒素として、最近イチゴの黒斑病菌の生産するAF-Toxin類の構造が明らかにされた。その構造はAK-Toxin類と極めて類似している。よってその合成をも計画し、すでにトリエン部分がすべてトランス構造を取るAF-Toxin 【II】cのメチルエステルの合成を完成した。今後、一連の類縁化合物(天然物を含めて)を合成し有機合成化学への寄与をはかる一方、構造と毒性の関係にメスを入れるべく研究を進める計画である。
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