研究概要 |
芳香環上の第3級アミド基とリチウム原子との強力なキレーション効果により達成されるリチェーション反応を基本とした種々の生理活性物質の簡便かつ位置特異的合成法の開発を行った。オルト-トルアミド類を非求核性強塩基と処理するリチェーション反応で、容易に得られるオルト-トルアミドアニオン活性種の反応性を検討し、本研究の基礎研究を行った。その結果、以下のことを明らかにした。トルアミドアニオン類は、芳香族ジメチルアミド類と容易に反応し、3-フェニルイソクマリン誘導体の簡便な合成に利用できた。脂肪族アルデヒド類との反応を利用すると、3-アルキル-3,4-ジヒドロイソクマリン類及び、3-アルキルイソクマリン類の合成が行われた。また、ビニルシラン類との反応では、各種のトテトラロン誘導体の-I程合成に利用できた。さらに、このトルアミドアニオン活性種は、ホモフタル酸無水物誘導体と容易に反応し、得られたケトアミド中間体の塩基性分子内閉環反応により、ベンゾナフトピラン環形成及び、3-アリール-1,3-ジヒドロキシナフタレン類が合成できることを見つけた。このナフトール誘導体は、ベンゾナフトピラン環を母核とし、特異な生理活性を持つWS-5995Aの合成鍵中間体である。このように、本研究の初年度、種々の化合物類とオルト-トルアミドアニオン活性種の反応性を吟味し、充分このアニオンが各種の求電子試剤と反応し有用な化合物類の合成子として活用できることを明らかにした。次年度は、これらの成果をふまえ、リチェーション反応を利用したベンゾナフトピラン系抗生物質の全合成に取り組みたい。これらの成果の一部は、第13回反応と合成の進歩シンポジウム(1986年11月6-7日・徳島)及び昭和61年度日本薬学会九州支部大会(1986年12月6-7日・熊本)で、すでに報告している。
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