研究概要 |
オルトトルアミド類を非求核性強塩基(例えばLDA等)と処理して生成するトルアミドアニオン活性種を用いて, ベンゾナフトピラン系抗生物質WS-5995Aの合成を行った. 本研究では, ベンゾナフトピラン環の構築成分としてホモフタル酸無水物(HA)の利用を検討した. このため初年度には, HAに対する各種求核試剤の反応を精査し, アニリン等の弱い求核試剤とHAとの反応ではHAの3位カルボニルヘ求核攻撃がまず進行し, ついで1位カルボニルと閉環しN-アリルホモフタルイミド類が生成することを明らかにした. 一方, 各種カルバニオン類等強い求核剤とHAとの反応では, HAの1位カルボニルへ求核攻撃した化合物が得られた. この反応生の差は, 強い求核剤の場合, 求核試剤がまずHAの4位水素を引き抜き活性の高い3位カルボニル基がエノールアニオンとなり, その結果求核剤は1位カルボニル基にのみ攻撃したと考察できる. 従来このようなHAの1位カルボニルへの求核攻撃は報告例のない全く新しいHAの反応である. これら初年度の知見を基に, 最終年度はオルトトルアミドアニオンとHAとの反応を行い, 前のカルバニオン類と同様, この反応でも1位カルボニル基へ求核攻撃が進行することを明らかにした. この反応を鍵反応とし, 分子内塩基性閉環を経て形式上HAへの炭素挿入を達成し, HAから1.3-ジヒドロキシナフタレン環への変換が可能となった. これらの化合物は, 酸化ついでラクトン化を経てベンゾナフトピラン系抗生物質WS-5995Aのメチルエーテル体合成に使用された. これらの成果の一部は, 昭和61年度(熊本・12月6日)及び昭和62年度(福岡・11月7日)の日本薬学会九州支部大会ですでに報告している. また, 日本薬学会第108再会(広島・4月4日)で発表予定である.
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