研究概要 |
T細胞レセプターは自己と非自己成分を同時に認識し、ウィルスに感染したり、癌化した自己の細胞を排除したりする。T細胞の抗原認識での自己成分は主要組織適合性抗原と呼ばれている膜蛋白質であり、T細胞は標的細胞膜上の主要組織適合性抗原と外来抗原の両者を認識するものと考えられている。我々はT細胞レセプターによる抗原認識機構を、T細胞の抗原認識後の細胞内情報伝達の追究から解析した。T細胞の細胞内情報伝達は蛍光ストップトフロー法と数種の蛍光プローブを組み合わせることにより、その初期過程を追究した。すなわち、ヘルパーT細胞は外来抗原(アゾベンゼルアルソネートチロシン)と抗原提示細胞上のI-A抗原を認識すると細胞内への情報伝達が進行し、その初期過程に相当する膜流動性の増大、細胞内カルシウムイオンの再配列、細胞内へのカルシウムイオンの流入が1〜2秒以内に起こった。このようなT細胞の初期変化はT細胞レセプター、外来抗原、自己と同一のI-A抗原の三者が存在するときにのみ、はじめて起きることが分かった。また、T細胞,外来抗原,抗原提示細胞の三者の混合の順番を変えてストップトフローの測定を行った。この場合、三者が共存したときはじめて細胞内情報伝達が起こり、その速度は混合の順番には依存していないことが分かった。この結果は、T細胞レセプターの抗原認識のモデルとして、予じめI-A抗原と外来抗原が安定な複合体を形成し、その複合体をT細胞レセプターが認識すると考えるよりも、I-A抗原,外来抗原,T細胞レセプターの三分子の会合によって安定な三分子複合体がはじめて形成され、その結果、細胞内情報伝達が開始されるものと考えられた。このような三分子複合体の形成は1秒以内に起こり、主要組織適合性抗原のみを認識して反応するアロキラーT細胞の場合とほとんど変わらない速さで細胞内のシグナル伝達が進行した。
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