二次元(2D)NMR法を生体膜と薬物との相互作用研究へ応用した。 1.二次元のNOE(NOESY)測定に際してはFIDにかけるウィンドウ関数について充分な配慮が必要であることが解った。この関数処理についてローレンツ-ガウス変換処理[g(t)=exp(t/RE)*exp(-t^2/AF^2)]を検討した結果、RE及びAF値を適当に選ぶことによって得られるサインベル様の関数グラフの中心(山)をFIDの取り込み初期の方向へずらす必要があると結論した。この関数処理の応用例として局所麻酔剤ジブカインを含んだレシチンベシクル重水溶液についてNOESYを測定した。その結果、ジブカインの芳香環プロトンとレシチンのコリンメチルプロトンのうち二重層の外側に存在するレシチンのそれとの間にNOEクロスピークが観測できた。このことはジブカインは二重層の内側には浸透して行かないことを意味する。この原因は小さなベシクル二重層の内側は外側に比べてPC分子が密に配列しているためかさばった分子構造を持つジブカインが安定に存在出来ない為と考える。 2.二次元法は、一次元NOE差スペクトル法と比較して、イ)分子間NOEがほどんど検出されない、ロ)分子内NOEは、一次元法よりもはっきりと観測することが出来る。イ)は、分子間NOEが分子内NOEに比較してはるかに小さいこと及び薬物と膜との相互作用系に於ける^1HーNMRスペクトルの線幅がブロードであり、等高線表示法では微少なNOE交差ピークを検出出来ない為と考える。一方、ロ)は、二次元NMR法の本来の利点、即ち特定のピークを照射する場合の近傍のピークへの照射漏れの心配が無い、重なり合ったNMRピークの中からでもNOE相関ピークを拾い上げる事が出来るといった特長が現われた為と考える。3.緩衝液を含んだレシチンベシクルとジブカイン、テトラカインとの相互作用様式は緩衝液を含まない場合とで異なる。ジブカインはコンフォメーションが、テトラカインの場合膜中の存在部位の異なるものが検出出来た。
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