研究概要 |
この研究の目的を達成するためには【^(57)Fe】(I=1/2)核による超微細(hf)分裂線を観測することが不可欠の要件である。しかし、【^(57)Fe】の天然存在比は少なく(〜2%)、その磁気モーメントも他核種にくらべ非常に小さく、【^(57)Fe】hf分裂の観測は著しく困難となっている。(事実、過去30年間にわたる低スピンヘム錯体のESR研究において未報告の課題である。) そこで、純度95%に濃縮された【^(57)Fe】粉末を用いて、低スピンヘム錯体【^(57)Fe】(TPP)【L_1】【L_2】(TPP:テトラフェニルポルフィン,【L_1】,【L_2】:軸配位子)を数十種類合成・調製し、線巾の狭いスペクトルを与え、かつhf分裂の観測しやすい錯体系のスクリーニングを行なった。その結果、【^(57)Fe】(TPP)【(OMe)(Λ-_2)】【1!〜】,【^(57)Fe】(TPP)(SEt)(MeOH)【2!〜】,およびこれらの関連錯体が見い出され、【1!〜】および【2!〜】についてg主軸方向におけるhf分裂が観測され、分裂定数を求めることができた。また、g主値と分裂定数の同時解析から斜方型結晶場と軸配位子面の配向角度が、【1!〜】および【2!〜】についてそれぞれ11.4゜および39.7゜であることが示された。 以下に新たに得られた知見を要約する。1.低スピンヘム錯体のESR研究において、初めて【^(57)Fe】hf分裂が観測された。2.g主軸方向におけるhf定数の解析から軸配位子面の配向角度を求める方法を確立し、【1!〜】および【2!〜】の錯体に具体的に応用し、配向角度を決定した。3.凍結溶液試料において、gテンソルとhfテンソルの主軸および立方結晶場と低対称結晶場の主軸の相対配向を決定した。4.従来、ESRからは直接求めることのできなかった共有結合性パラメタおよび軌道角運動量縮少因子を評価した。などである。 軸配位子の配向角度はヘム錯体やヘム蛋白質の反応性を制御する一つの機構と考えられるので、次年度は配向角度に影響する諸因について一系列の錯体系を用いて検討を加える予定である。
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