研究概要 |
癌細胞を分化させ造腫瘍性を低下、喪失させ、脱癌化を導く研究が新しい癌治療法の一つとして注目されている。本研究ではヒト骨髄性白血病細胞のin vifro培養系で癌細胞をマクロファージ様細胞に分化させる白血球由来のタンパク性因子の精製を試み、その性状を明らかにするとともに生理作用を調べた。大量の末梢血buffy coatから単核白血球を分離し、mitogenを添加した培養上清からイオン交換,ゲル濾過,等電点電気泳動,高速液体クロマトグラフィーを駆使して分化誘導活性を有する因子(Differentiation Inducing Factor,DIF)を精製した。等電点5.6,SDS電気泳動で分子量17,000の単一のタンパクが得られ、プロティンシークエンサーでN末端アミノ酸を決定した。その結果、精製したDIFのアミノ酸配列は調べた20個の範囲でTumer Necrosis Factor(TNF)と同一であった。遺伝子組み換えTNF(γHuTNF)に分化誘導活性が認められること、またDIFに対するモノクローナル抗体がTNFの分化誘導活性と細胞障害活性を中和することからDIFはTNFであることが強く示唆された。腫瘍に出血壊死を起こさせる因子として発見されたマクロファージ由来のTNFはマクロファージ前駆細胞にあたる骨髄芽球や単芽球細胞をマクロファージ方向へ分化誘導することが判明したわけで"positive feed back control"の機構が存在することが示唆された。TNFの分化誘導作用はInterferon-γやRetinoic acid等他のBiological Response Modifiersと併用すると相乗的に増強された。またDNA合成を阻害する抗癌抗生物質と併用すると著しく作用が増強されることが判明し、臨床応用していく上で興味深い知見が得られた。 その他単球培養上清,ヒト胎児肺由来の線維芽細胞培養上清にTNFと区別される分化誘導活性を有するタンパク性因子が存在することが判明し、それらの精製が現在進行中である。部分精製したこれらの因子はIFNやTNFと相乗的に作用することも判明した。
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