研究概要 |
狭心症の治療理論として、心筋への血行増加或いは心筋酸素消費の抑制が挙げられている。そして血行増加を起こす薬物として冠拡張薬があり、酸素消費抑制はβ遮断薬によって達成されると言われて久しい。しかし、冠拡張薬による冠血行増加に主役を演ずるのは冠血管の抵抗部分で、これは実質的には arteriol 以下の小動脈である。しかして、冠不全の原因は剖検所見では略々例外なく太い冠血管、とくにその分岐部に多いといわれる。従って理論的にこの病態の改善には太い冠血管の拡張が必要なことになる。従来、細い冠血管の拡張は coronary steal を起こし、太い冠血管の拡張は coronary steal を起こさず、虚血部分の血流増加に働くと言われてきたが、前に記したような透徹な考察はまだされたことがない。これは従来太い完血管径を直接測定することができなかったからである。本年度は無麻酔無拘束犬におけるニトログリセリンを中心に検討したところ左心室内径,心博出量,静脈還流にニトログリセリンは本質的影響を与えることがなく、心拍数が増加する場合にはそれに応じた博出量及び静脈還流の増加と左室内径の減少を呈したが、これは後負荷の低下にもとずく前負荷の低下を示すに留まる。一方冠流血量と太い冠血管径の同時計測はニトログリセリンは従来考えられたような冠血行の増加を起こさず(抵抗血管の拡張を起こさない)、太い冠血管径の顕著な増大を呈し、ここれに反しニフェジピン、ニコランジルなどの血管拡張薬は抵抗血管,伝導血管をともに拡張し、ニトログリセリンとは作用態度に明確な差異があることを明らかにした。 ニトログリセリンの太い冠血管拡張作用は他の心臓血管系機能に影響を与えない微量(静注、舌下)で発現し、その効果発現、作用持続も臨床効果と一致するのでこれを抗狭心症効果と確定することができる。
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