研究概要 |
昭和61年度は、表記の研究課題に関して下記の研究実績を得た。 A.妊娠期の社会心理的要因が分娩後の雌マウスの攻撃性に及ぼす影響 雌雄同居状況では、分娩直後においても雌親の侵入者に対する攻撃性は殆んどみられない。しかし、妊娠期に配偶雄が不在の場合、雌親の攻撃性は顕著に亢進し、また、配偶雄と同居させておいても交尾後に去勢した場合には高頻度な攻撃性を示すことが明らかとなった。個体識別の観点から、フェロモンの分泌腺(preputi al qland)を摘除した配偶雄と同居させたが、雌親の攻撃性に変化は認められなかった。交尾後から配偶雄にエタノールを連日投与した場合にも雌親の攻撃性は亢進しなかった。一方、敵対する侵入者の特性を変容させた場合、去勢侵入マウスでは母性攻撃は完全に抑制され、嗅球摘除侵入マウスに対しては激しい攻撃性を示した。以上、分娩後の母性攻撃発現には、社会心理的要因の関与が大きいと推察される。 B.雌マウスの攻撃性に対する向精神薬の急性および慢性投与の影響 抗ラフ薬は、三環系(イミプラミン,クロルイミプラミン)および非三環系(インダルピン)のいずれもが急性および慢性投与により母性攻撃を有意に抑制した。抗不安薬は、ベンゾジアゼピン系(クロルジアゼポーキサイド,ジアゼパム)が急性投与で母性攻撃を亢進させ、非ベンゾジアゼピン系(スリクロン,CL-218,872)では抑制効果が認められた。しかし、慢性投与では、いずれの抗不安薬も有意な効果を示さなかった。薬用人蔘のサポニン成分は、急性および慢性投与により著明に母性攻撃を抑制した。 次年度は、これらの実験成績の論文発表を主体に、さらに脳内の神経機序や内分泌学的背景の解明に実験を進めたく考えている。
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