研究概要 |
明るさや色の物理的対比の存在しないところで知覚される主観的輪郭は, 生体の巧妙な輪郭軸出機構を反映した現象である. 本研究は, 主観的輪郭を生じることの知られている図形を入力すると, 自動的に主観的輪郭を形成し出力するアルゴリズムを考案することを目的とする. 心理学的知見を参照し, 主観的輪郭を一部に持つ図形が他の図形をおおい隠していると仮定して, アルゴリズムを構成した. すなわち, 物理的対比により生じる客観的輪郭が主観的輪郭によりおおい隠される点は, T形の頂点の一部の欠けたL形頂点となることに着目した. まず入力画像に, ラプラシアンGオペレータを作用させ, その結果えられる画像のゼロクロッシングをたどり, 客観的輪郭を抽出する. ついで, そのL形頂点を抽出する. この処理は, 視覚系の超複雑形細胞の機能に相当する. L形頂点を形成する2つの辺の延長は, 一方が主観的輪郭, 他方がおおい隠された客観的輪郭の候補となる. 主観的輪郭およびおおい隠された客観的輪郭の, それぞれの両端点となるL形頂点対の決定は一つには閉じた図形の形成の制約と, いま一つはゲシュタルト心理学での近接の要因と(方向の)類同の要因との組み合わせからなる評価関数とによって行う. 以上のアルゴリズムを種々の典型的な図形に適用し, 満足すべき結果をえることができた. 原図形に線分が混在するときは, 線分の端点を抽出し, 主観的輪郭の通過する点の候補とする. しかし, 線分の端点は, L形の頂点そのものとは異なるので, その扱いについてはなお検討の余地がある. 以上2値図形についてのアルゴリズムの濃淡画像への拡張は容易である. すなわち客観的輪郭のL形のみならずT形の頂点も含めた頂点対の決定問題として, 定式化できる. このアルゴリズムにより対比のほとんど存在しない領域からも輪郭線の抽出が可能となる見通しをえた.
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