研究概要 |
組織化学的方法により肝炎発症ラット(LEC)は肝炎発症(3-6月)後も慢性的な肝炎状態を継続し、かつ、このラット肝細胞の再生は正常ラットよりはやいことを観察した。このことは、LECラット肝で肝細胞の再生,壊死が繰り返し生じていることを示している。このことが肝癌発症の温床になっていると考えられる。このため現在、前肝癌状態の最良のマーカーであるグルタチオンS-転移酵素の遺伝子発現異常を利用して、肝炎ラットにおけるグルタチオンS-転移酵素(GST)の動態を抗GSTモノクロナル抗体を用いて調べた。 肝グルタチオンS-転移酵素に対するモノクロナル抗体、BE91a1(抗Ya抗体)(Cancer Res.1984),とBE6Yc1(抗Yc抗体)(Cancer Res.1986)とをもちいLECラット(6-12月齢)肝および化学発癌による肝癌前駆状態の肝を免疫組織化学的に染色し比較した。LEC動物の繁殖が大変悪いため例数は少ないのであるが、このラットに顕微鏡レベルでの小さなfoci状のものが観察された。BE91a1モノクロナル抗体はこれらのfociとは反応しなかった。一方、抗Yc抗体であるBE6Yc1は肝中心静脈とこれらfociと反応していることが判明した。一方、化学発癌剤による肝fociにたいしては抗Ya抗体であるBE91a1モノクロナル抗体がfoci特異的に反応した。このことは慢性肝炎状態でのfociと前肝癌状態のfociとでは明らかにグルタチオンS-転移酵素の遺伝子発現が異なっていることを示している。慢性肝炎状態で観察されたfociでのGST分子種が肝癌発症時期頃でどう変化するかは大変興味あるところであるが、まだLECラットの癌化した肝組織を得ていない。この点に関しては現在このラットを長期飼育観察中である。
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