研究概要 |
免疫生物学研究において用いられる実験動物は、その遺伝学的背景が確実なことが重要である。免疫学の発展の基礎となったのは、厳格に系統維持された近交系マウスである。これらのマウス系統維持のためには、定期的にそのマウス系統に特有の遺伝学的指標を調べなければならない。免疫生物学研究において、リンパ球表面抗原が主要な役割を担うことが明らにかっているが、申請者らは、ハイブリドーマ技術を用い、細胞膜表面に存在する抗原に対するモノクローナル同種抗体を確立し、近交系マウスの免疫遺伝学的モニタリングの方法を確立することを目的とした。種々のマウス系統の組み合わせで同種免疫し、その脾細胞とミエローマ細胞とで細胞融合を行った。免疫原としては、リンパ系組識である、脾臓,リンパ節,骨髄などの細胞を用いた。正常リンパ系組識のみならず、細胞表面に発現している抗原量が多い腫瘍細胞にも免疫原として用いられた。免疫されたマウスの脾細胞とミエローマ細胞とを融合させ、特異的同種抗体産生クローンを検出し、クローニングをくり返して行い、それを細胞株として確立した。抗原検出方法としては、ウサギ血清補体を用いた細胞障害試験を用いた。高い抗体価のモノクローナル抗体が必要な場合は、ヌードマウスの腹腔内でハイブリドーマ細胞を増殖させ、腹水を採取して用いた。この方法で得られたモノクローナル抗体は合計26種類であった。これらの抗体により検出される抗原特異性は、種々の近交系マウスおよびコンジェニックマウスを用いて決定された。その結果、日常の免疫生物学研究に用いられるハプロタイプb,d,kを有するH-2およびIa抗原に対するモノクローナル抗体であることが判明した。抗H-2抗体の場合には、さらにH-2K,H-2D特異性も確定した。これらの抗体は、近交系マウスの遺伝学的モニタリングに重要な試薬となると思われる。
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