研究概要 |
本年度は, まず前年度研究計画のうち1部残されていた実験を行い, Cu結晶(111)表面の刃状転出位置の溶解速度におよぼす過電圧(156, 166, 176, 186mV)の効果の研究を完成した. 次に, 当初の研究計画に沿い, 転位ピット形成の臨界の過電圧の温度依存性を調べたのち, 化学ポテンシャル差が一定(〜0.14eV)になるように印加電位を決めて, 溶解速度におよぼす温度(268, 283, 298, 308K)の効果を調べた. 得られた結果は次のとおりである. 1.電解の初期において電流密度は急減し, 極小に達した後, 時間と共に変動しながら増大する. その電流密度は過電圧および温度と共に増大する. 2.腐食面の刃状転位の出現点にはややふくらみを帯びた三角錐状の深いピットが形成される. そのピットの幅h, 深さdおよび基地溶解量sは溶解の初期において急に増大した後, 時間tと共に直線的に増大する. 以上の傾向はいずれの過電圧および温度においても同様である. 3.ピット寸法および基地溶解量の増大速度h^^・, d^^・およびs^^・より推定される転位線に垂直な水平方向の溶解速度V_h, 転位線に沿う垂直方向の溶解速度V_dおよび基地の溶解速度V_sは過電圧および温度とともに増大した. 4.過電圧の増大と共にV_hとV_sはほぼ同じ割合で増大するが, それにくらべてV_dの増大の割合は大きい. この効果はピット斜面の勾配d/hが過電圧と共に増大することによっても示される. 5.温度に対する溶解速度の増大の割合はV_hが最も大きく, ついでV_sがやや小さく, V_dは両者にくらべて小さい. この傾向はd/hが温度と共に顕著に減少することと対応している. 以上の結果は二次元核形成による結晶溶解の速度式の化学ポテンシャル差および温度依存性により説明される.
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