持久走中には、四肢の交番運動・身体の上下動のリズム、とくに筋肉ポンプのリズムが心拍リズムに影響を与え、エネルギー消費を左右する可能性が考えられる。本年度はまず、トレッドミル走と野外走において、心拍リズムと走リズムの関係を解析した。被験者に帽子を被らせ、その後頭部に加速度計を固定し、その出力及び心電図を携帯用データレコーダに記録した。一脚の蹴出しから他脚の蹴出しまでの時間をT、蹴出しから心電図のR波のピークまでの時間をtとするとき、φ=(t/T)×360を位相と定義し、加速度と心電図とを電算機に入力してφを計算した。被験者は大学院生4名(男3、女1)、教員2名(男、33-47才)。走行条件は、トレッドミル走では速度150-200m/分、勾配0-4%、走時間20-50分、野外走では走行距離3-9kmを無理せず、好みのペースで走るように指示することとした。以上の観測の結果、心拍リズムと走ピッチが接近している部分(約160-170/分の部分)に注目すると、トレッドミル走・野外走共に、最長例では4分間強にわたり、走リズムに対して心拍が一拍もずれることなく、同期する現象がみられた。同期期間中のφは180前後に安定していた。 この同期が、走リズムに対する心拍の位相に依存して生ずることを示すために次の実験を行った。心電図のR波から一定の時間遅れをおいて音を出し、その音に合せて走行させる。この方法により、走リズムに対してほゞ定まった位相に心電が生ずるように設定できる。実験結果は、走リズムに対するR波の位相(φ)が約270のときには心拍が速くなり、φが約90のときには心拍が遅くなった。この結果を生じる機構により、走リズムに対する心拍の位相が180付近に安定すると考えられる。以上のような同期現象が、エネルギー消費を小さくしている可能性について、昭和62年度に検討を加える計画である。
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