研究概要 |
ニワトリ細胞性フィブロネクチン(CCFN)標品から赤血球凝集活性をもつ分子をフィブロネクチン本体より分離し単離に成功した. 生化学的免疫学的な比較解析により, この分子は, 86年にスイスのChiquetらがその存在を明かにした細胞間マトリックス分子, テナシンと同一と思われた. ニワトリ胚肢芽未分化間充織五細胞の培養系に精製品を添加したが, CCFN標品の示す細胞凝集の誘起と凝集部位の軟骨分化促進作用は代用できなかった. 再度, 検討を加えた所, CCFN標品の活性の大部分は, フィブロネクチンより低分子のSDSポリアクリルアミドゲル電気泳動で分子量約16,000蛋白質バンドを与える物質によると思われた. ニワトリ胚には分子量16,000と14,000のβ-ガラクトシド結合性レクチンが存在する(笠井献一, 細胞工学, 6,222-232,87年). しかしこの分子の生理活性については不明であった. 両レクチンの精製品とそれらに対する抗血清の供与を受けた. SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動後のイムノブロティングによりCCFN標品中には, 上記2種のレクチンの両方が, また発生段階22-23のニワトリ胚の肢芽の粗抽出液中には分子量16,000のレクチンが存在することを認めた. ついでニワトリ胚肢芽未分化間充織細胞の培養系にこれらのレクチンを直接加えたところ, CCFN標品に代わる細胞凝集の促進効果を認めた. またCCFN標品の添加と同時にこれらのレクチンに対する抗血清を加えたところ, 促進効果は中和された. のみならず, CCFN標品を加えない時にゆっくりと進行する, おそらく間充織細胞自身が合成する分子によると思われる細胞凝集をこれらの抗血清は阻害した. 以上から, CCFN標品の細胞凝集促進活性は, 混入するβ-ガラクトシドレクチンによるものであると推定された. さらにニワトリ胚肢芽における軟骨分化決定要因として重要な未分化間充織細胞凝集現象に, このβ-ガラクトシドレクチンが関与している可能性が強くなった.
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