本年度はTissue Factorアポタンパク質(TF-Apo)の精製法、およびその構造-機能相関について以下の成果を得た。 1.TF-Apoの精製ならびに分子性状。 ヒトリンパ腫由来のTF産生株(RET-1)を大量培養し、そのセルペレットをトリトン処理してTF-Apoを可溶化後、コンカナバリンA-カラム、DEAE-5PW-カラム及び第【VII】因子-カラムを活用した精製法を確立した。本精製法で、1×【10^(10)】個の細胞から9.400倍の精製度のTF標品を20Mg得た。TF-Apoは、N-グリコシルオリゴサッカライドを持つ糖タンパク質であるが、非常に強い疎水性を示し、界面活性化剤不在下では全く可溶化されなかった。TF-Apoの分子量は、トリトン共存下でのゲルろ過法で120KDaと推定され、一方、SDS-PAGE法では47KDaと推定された。また、pH4以下の酸性条件やイソプロパノール(18%以上)、アセトニトリル(8%以上)の有機溶媒に対しては不安定で、その活性を完全に失った。 2.TF-Apo糖鎖の役割。 マクロファージあるいは上述のRET-1細胞株を利用して糖鎖部分の欠損したTF-Apoの生合成素を確立した。糖鎖を欠いたTF-Apoは不安定で、特にプロテアーゼによる失活化を非常に受け易い。更に、リン脂質との再構成の時、正常のTF-Apoに比べ糖鎖を欠いたもののTF活性は著しく低下した。これらは、糖鎖部分がTF-Apoの構造安定性、ならびにリン脂質ミセルへの配向性等に、重要な役割を果たしていることを示唆している。 なお、TF-Apoのアミノ酸組成や一次構造の解析、あるいは第【VII】因子との反応機序の検討に関しては、今後RET-1の大量培養を重ね、数百Mgレベルの精製標品を得て着手する。
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