研究概要 |
細菌細胞の膜に存在する能動輸送担体の構造と機能および輸送機能を明らかにするため, 輸送系の生化学的解析, 輸送変異株の分離と性質, 変異株輸送担体の一次構造の変化の解明という面から当研究を進めた. 特にNa^+と共役する輸送系について, 大腸菌と腸炎ビブリオを中心に解析を進めた. 本研究においてNa^+と基質の共輸送系がいくつか発見された. 大腸菌のセリン・スレオニン輸送系, 腸炎ビブリオのアデノシン輸送系, AMP輸送系等である. これらの系に関する生化学的性状を明らかにすると共に, 誘導性や抑制性に関する知見を得た. Na^+と共役する輸送系のうち, 大腸菌のメリビオース輸送系について, 多数の変異株を分離した. それら変異株について, 細胞レベルにおける性状の変化, メリビオース輸送系の性状の変化, およびイオン共役の変化を明らかにした. そして, それら変異株のメリビオース輸送担体の機能の変化を, 担体の一次構造の変化と対応させることを試みた. 代表者らはすでに親株のメリビオース輸送担体の一次構造を遺伝子DNAの側から決定し, 報告している. 変異株についても, 変異したメリビオース輸送担体遺伝子をクローニングし, DNA塩基配列を決定した. こうして変異株の輸送担体の一次構造上の変化(アミノ酸置換)が明らかになった. メリビオース輸送担体のアミノ末端から142番目のプロリン残基, 232番目のロイシン残基, 236番目のアラニン残基等が, それぞれセリン残基, フェニルアラニン残基, スレオニン残基に置換することにより, 担体のH^+認識能が無くなることが明らかになった. ところが, Na^+認識能には変化がなかった. このようにして, メリビオース輸送担体の一次構造上, カチオン認識に重要なアミノ酸残基および輸送担体の機能ドメインが明らかになった.
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