本研究は三種のヒマ種子レクチンについてそれぞれ糖結合部位構造を明らかにしようとしたものである。まず、東南アジア産ヒマ種子より得たリシDについて検討し、このレクチンはカルボキシル基を化学修飾すると細胞凝集能を消失することを認めた。 分光学的手法および親和性クロマトグラフィーによる解析結果から、この細胞凝集能の消失はリシンDの2つの糖結合部位のうち高親和性部位における糖結合能の消失によることが明らかとなった。 また、カルボキシペプチダーゼYによるリシンD-B鎖の消化実験の結果からB鎖のC-末端部位にある6個のアミノ酸残基は高親和性部位の構造形成に関与していることが示唆された。 一方、リシンDのイソレクチンであるヘムアグルチニン(CBH)の恬性発現にはヒスチジン残基が関与することを見い出し、ケイ光ラベル剤を用いて詳細に検討し、CBHのB鎖の248位のヒスチジン残基はガラクトピラノシド認識部位に存在することおよび251位のヒスチジン残基はオリゴ糖との結合に際してサブサイト相互作用を行う上で重要な働きをすることが判明した。 ついで日本産ヒマ種子から得たリシンEについても検討し、このレクチンは上記東南アジア産ヒマ種子のレクチンとは異なりグアルガム凝集能を欠くことを見い出し、リシンEはリシンDやCBHとは糖認識機構を異にすることを示唆した。 さらに分光学的解析結果と透析平衡法による実験結果から、このレクチンはリシンDと同様に2つの糖結合部位を有するが高親和性部位における糖結合能はリシンDのそれに比べて低く、また構造も異なることを明らかにした。 また化学修飾の結果からリシンE-B鎖の高親和性部位にはヒスチジン残基が存在し、この残基はB鎖の248位または251位のヒスチジンであることを明らかにし、この部位はCBHの糖結合部位構造と相似することが判明した。
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