我々はヒト血小板の糖蛋白GP【I】bが分子的多様性を示すことを見出した。本研究は主にこの多様性を分子構造の上から明らかにし、又その生理的意義を探ろうとするものである。本年度は以下の研究が行なわれた。 1.米国白人のGP【I】bの多様性を分析したところ日本人と大きく異なる分布を示した。欧米では日本に軟べて脳血栓症の多いことから脳血栓症患者血小板のGP【I】bを分析した。患者では米国白人に多いC型が増加し、少いA型が低下している傾向が認められたが、例数が少く確実なことは言えず、より多くの分析が必要となった。 2.GP【I】bの構造分析のその精製を試みた。GP【I】bは疎水性であるためその精製が非常に困難であったが、この分解産物であるグリコカリシン(Gc)はGP【I】bの多様性を保持しており、又水溶性で精製も簡単なことを見い出した。のこ方法でC型およびD型のGcを精製することができた。これを用いて現在アミノ酸配列の分析中である。 3.精製したGcをトリプシン処理し、得られた分子量約4万5千のペプチド(活性部分)を用いてウサギ抗血清を得た。この抗血清は血小板のGP【I】bを特異的に染色したが、培養内皮細胞では検出不可能であった。これは内皮細胞でGP【I】bが十分合成されていないか、合成されたGP【I】bの構造が血小板と異っている可能性があるが現在不明である。このため内皮細胞は遺伝子クローニングには不適当であると判断した。最近確立された巨核球系の培養細胞を用いてGP【I】bの発現を検討したところ、TPAなどの誘導剤によりGP【II】b/【III】とともにGP【I】bも発現されることを確認し、現在この細胞を用いてGP【I】bのクローニングを計画している。 4.未報告のGP【II】bに分子異常のある血小板無力症患者を見い出し、この異常GP【II】bの性質を電気泳動にて検討した。この異常は本来2本鎖のGP【II】bが1本鎖になったものと思われ、その構造を解析する予定である。
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