研究概要 |
肝実質細胞の酵素分布には不均一性があり、肝小葉内に代謝の分担性が存在するという知見が得られている。我々も免疫組職化学的手法を用いた解析で尿素サイクル酵素の不均一な分布を見い出した。本研究は、門脈周辺細胞を中心に比較的広く分布している尿素サイクル酵素と、中心静脈周辺数層の細胞にのみ局在するグルタミン合成酵素(GS)を取り上げ、肝小葉内での窒素代謝の分担性と各々の酵素の遺伝子発現調節機構の手掛りを得ようとするものである。この目的のために、まず窒素代謝に関与する酵素のcDNAを調整することから始めた。ラットアルギナーゼおよびアルギニノコハク酸リアーゼに対するcDNAはクローン化できた。ラットアルギニノコハク酸合成酵素(ASS)cDNAは現在ヒトASScDNAをプローブとして単離に努めている。一方、GS抗体を作成したが、単一抗体ではなかった。そのためラット肝より調整した吸収物質でGS抗体を処理した。抗体の純度検定に、本研究経費で購入したセミドライトランスブロッターを利用した。ラットGScDNAは発現ベクターを用いて抗体によりスクリーニングしているが、まだ単離できていない。肝実質細胞の不均一な酵素発現に影響を与える因子の同定は非常に困難であるが、シトルリン血症においてその原因酵素であるASSに特異的な分布が見られることより、病態との関連性を更に深く追求した。我々は【II】型シトルリン血症50数例中25例について肝ASSの免疫組職を行った。うち11例は対照と変らない、ほぼ均一なASS分布像を示した。残り14例では塊状の異常分布像が得られ、ASS以外の酵素分布には異常は認められなかった。塊状群で若干男性が多い傾向にあったが、2群間に年令,肝ASS活性,血清シトルリン濃度などの程度の差はなかった。顕著な差異は生命の予後であり、塊状群は病理相職学的な所見が少ないにもかかわらず12例がすでに死亡している。
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